「新型コロナウイルスの影響で地方移住を検討する人が増える」
そんな話を聞くことがあります。
2020年8月現在、コロナで地方移住が増えたかどうかに関しては、まだ検証できるだけのデータが出てきていないように思えますが、地方に人を呼び込もうとしている人からすると大きなチャンスになる出来事だと言えるでしょう。
しかし、地方に人を呼ぶにしても東京・大阪からの距離が近い地方都市が集客において有利で、大都市から距離が離れすぎている場合には集客が難しいものです。
そんな中、人口の50%以上が65歳以上の高齢者となっている、高知県の嶺北地方に若者が集まるコミュニティがあります。
こちらのコミュニティの中にある「シェアハウスわんく」では、1年間限定で滞在できるプログラムを実施し、2020年は3期目を迎え、毎年4人づつの卒業生を輩出。
中には、定住をして農業に従事している方もいるそうです。
東京から750km離れた山岳地域に、なぜ若者が集まるのでしょうか?
今回は、運営者と実際に移住をした方へのインタビューを通して、その秘密に迫ります。
高知の山奥にある若者が集まるコミュニティ
嶺北地方は、周囲を標高200m〜1800m山々に囲まれた山岳地帯にあります。
土地の89.6%が山林となっており、宅地面積はわずか0.4%の典型的な山村地域。
嶺北地域の中でも今回取材したシェアハウスのある本山町は、1965年(昭和40年)には7343人の人が住んでいたそうですが、2020年(令和2年)には3452人まで減少しているそうです。
全国的にもトップクラスで過疎化が進むこの地域に、なぜ若者が集まるのでしょうか?
運営者である、NPO法人ひとまき事務局長の林さんにお話を聞きました。
まずは、どんなシェアハウスなのか教えていただけますか?
シェアハウスわんくは、1年間限定で入居できるシェアハウスです。
2018年-2019年に1期生を受け入れし、2020年-2021年の滞在者が3期生になります。
なので、これまでに3年で12名の若者が嶺北に滞在したことになりますね!
「暮らして学べるシェアハウス」をコンセプトに、月1回のメンタリングを通して自分の生活面での目標や、事業づくりのサポートを受けながら1年間滞在していくという仕組みです。
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ーーーなるほど。ただ田舎暮らしをするということではないんですね。
そうですね!もちろん、狩猟や農業など田舎暮らしに興味があって来てくれる人もいますが、YouTubeやSNSなど ネットでの発信活動をしたいという人も多いです。
僕たちのコミュニティにはWEBメディアを運営していたりとネットでの仕事をしている仲間が多いので、そういった若者が集まってくるのだと思います。
なので、このシェアハウスわんくの1階はコワーキングスペースになっており、毎日パソコン作業やミーティングなどで賑わっていますよ!
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ーーー思っていた田舎暮らしとはイメージが違いました! でも、どうやって若者を集めているんですか?
若者が集まってくる一番の要因は「地方移住」ではなく「自己実現」を切り口にしているからだと思います。
コロナで地方移住を考える人が増えたなんて話がありますが、「地方移住そのもの」を目的にしているわけではないですよね?
例えば、「地方移住することで自然あふれる環境で暮らしながら、自分の専門性がある分野での仕事は継続したい」とか・・・・・。
地方移住を検討するのには、その人なりの目的があると思うんです。
僕たちは、そういった若者の自己実現のサポートに主軸を置いています。
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ーーーなるほど。若者も地方移住ではなく自分の自己実現のために嶺北に来ているんですね。
そうですね!
「一度立ち止まって生き方を選び直すための場」を提供しているイメージです。
もし、1年間いろいろなことに取り組んでみて、自分の理想を嶺北で叶えていけるイメージがある人は、そのまま嶺北に残るという道もアリだと思っています。
実際に嶺北に残って、事業や暮らしを継続する人もいますし、別の場所で新たな挑戦をする人もいます。
まずはやってみないと分からない面もありますので、1年間試しに住んでみる「試住」ができるというのも若者が集まりやすい要因の1つですね。
インタビュー①:人生の可能性を広げるため嶺北へ
中井 ヤスヒロさん
3年勤めたロボット設計の仕事を退職し、人生の可能性を広げるために高知嶺北へお試し移住。フリーランスとして、YouTubeでの発信活動・動画編集・オンラインコーチング・コミュニティづくりなどを行っている。Twitter:中井ヤスヒロ @nakai_ch
YouTube:ナカイチャンネル
シェアハウスでは、どんなことをしていますか?
WEBでできる仕事をしているので、パソコンに向かって仕事をしている時間が多いです。
YouTubeでの発信活動・動画編集・オンラインコーチング・コミュニティづくりなどがメインですね。
これらの仕事はもともとやっていたわけではなく、コーチング以外は嶺北に来てから始めました。
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ーーーこの山奥でYouTubeという最先端なことをされてるんですね! どんな内容なんですか?
新卒3年目で会社を辞めて、山奥で暮らす男の日常をVlogとして発信しています。
Vlogというのは、Video blogの略で、文章で書くブログのように日常生活を動画で発信するコンテンツです。
それ以外に、他の方のYouTubeチャンネルの動画編集の仕事も受けています。
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ーーー散歩の時の自然が雄大で癒されますね! でもなぜ高知の山奥に移住したんですか?
自分1人でできることを増やしたり、会社でやっていたことに加えて人生のステップアップをしたいと思ったからです。
また、新卒で勤めていた会社での経験も「環境を変えなきゃ」と思った原因の1つかもしれません。
僕はロボット設計の仕事をしていたのですが、業務を理解するのが遅く上司もキツイ人だったので、途中で何度も「帰りたい」と思ってしまい、会社帰りには毎日吐いていました。
ナカイチャンネルより
車に轢かれて怪我をしたら会社に行かなくてもすむ・・・・なんて思ってしまった事もあって、今思い返すとよく頑張れたなと思います。
3年目を迎える頃にはできることも増えて仕事も楽しくなってきましたが、新しいステージに進もうと決意。
退職したタイミングでは嶺北に来ることは決まっていたわけではないのですが、友人が嶺北に移住しており、わんくの募集を教えてくれたのがキッカケでしたね。
タイミングも良かったので、まずは1年間環境を変えるつもりで来ました。
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ーーーロボット設計の仕事から山奥への移住というのは大きな環境変化ですね! 実際に住んでみてどうですか?
人も少ないですし、自然もたくさんあって、環境的なストレスがないです。
なので気が楽ですね。
都会に住んでいた頃は、買い物にいったり、お酒を飲みに出かけたりお金を使うことが遊びだと思っていました。
でも、こちらに来てからはお金を使うのではなく、いまあるもので何ができるのかを考えるようになりました。
YouTubeも「会社を辞めてYouTubeやろう」と思っていたわけではなく、嶺北に来てから自然を活かして何をできるのかを考えた結果たどり着いたもの。
今後はSUPというサーフボードの上に立って海や湖面を進むスポーツのガイドを目指してみるのも面白いかなと思っています。
インタビュー②:老後ではなく、今すぐ田舎暮らしをしたかった
あかりんご さん
神戸大学4年生。ニホンジカ活用推進を行う学生サークル「みじか」代表。大学では畜産の勉強をしており、以前から田舎暮らしに憧れる。SNSで高知嶺北のシェアハウスわんくの募集を見つけ「老後や就職後ではなく、学生である今から田舎暮らしに挑戦したい」という思いから嶺北で1年間暮らしてみることを決意。Twitter:あかりんご🍎鹿ライター
ライターをしているサイト:ジビエ専門サイト ジビエーる
シェアハウスでは、どんなことをしていますか?
午前中はネット記事を書くライティングの仕事をしています。
もともとライティングの仕事はやったことがなかったのですが、縁あって嶺北に来てから先輩移住者の方から仕事を頂いています。
書いている記事の内容は、ほとんどが大好きな鹿についてです!
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ーーー鹿の記事というのは珍しいですね! 鹿についての記事を書くようになったキッカケはあるんでしょうか?
もともと、反芻動物(牛、羊、山羊など草を主食とし4つの胃を持つ動物)が好きで、大学では畜産の勉強をしていました。
そんな折に、牧場ボランティアで鹿の獣害に遭った農家さんの話を聞いたのが転機となりましたね。
農家さんにとって、鹿は大切に育てた作物を荒らしてしまう存在です。
当然、人間と共生していくために駆除していく必要があります。
しかし、一方で鹿肉は高タンパクですし、鹿皮はシルクのように非常に手触りが良く、非常に可能性のある動物だと思います。
鹿について知るうちに、いつの間にかそのポテンシャルに魅せられていました。
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ーーー仕事とミッションが一致しているのは素晴らしいですね! 仕事以外は何をされているんですか?
鹿に関する本を読んだり、鹿革を使った製品づくりのために工作をしたりしています。
あとは散歩したりかな。
鹿に対する可能性をすごく感じているので、鹿のことばっかり考えていますね笑
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ーーー鹿づくしですね! ところで、なぜ大学を休学してまで高知の山奥に来ようと思ったんですか?
一言でいうと「じゃない方の生き方をしたかった」というのが嶺北に来た理由になります。
私は、もともと田舎暮らしに興味があったのですが、大学に入ると就活をして都会暮らしをするというのが一般的ですよね?
あかりんごさんが代表を務める 狩猟&ジビエサークルみじかHP
でも、「その逆ってどんなだろう?」と考えた時に、就職せずに田舎暮らしという選択肢が自分の中で湧いて出てきました。
もちろん、一度就職してからとか、老後に田舎暮らしをするという人生も考えました。
でも、やりたい事は今やりたい!って思ってしまったんです。
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ーーーなるほど。田舎暮らしは老後という決まりはありませんしね!
そうですね!そんな時に見つけたのが田舎に1年間滞在できる、わんくの募集だったんです。
知った時は休学をした後だったのですが、「これだ!」と思って直感で申し込みました。
高知が私を呼んでるって思いましたね笑
まず田舎にお試しで1年住めるというのは、私にとっては正に求めていた環境でした。
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ーーー聞けば聞くほど、りんごさんにピッタリな環境に思えます。実際に田舎に住んでどう感じましたか?
本当に最高だな〜って毎日感じています。
特に嶺北で迎える、静かな朝には驚きました!
都会に住んでいた時は隣の家の目覚ましとか、道路を走る車の音とかで起きることが多かったのですが、嶺北では鳥の鳴き声で起きるというディズニー映画のような毎朝をおくっています。
あと、田舎に来て物欲が無くなりました。
都会だと自分が見ようとしなくても広告が目に入ってきてしまいますが、田舎ではそんなことはありません。
ゴチャゴチャとした余計な情報が目に入って来ないので、自分がやりたいことに集中できます。
また、わんくでは私以外にも3人の住人が居て、全員が自分のテーマを持って1年間の生活をしています。
そんな仲間たちと切磋琢磨できる環境というのも非常にありがたいです。
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ーーーわんくの滞在が終わる1年後にはどうなっていたいですか?
「新卒で田舎暮らしをする」という選択肢が選べるようになりたいです。
そのためには、WEBライターとして個人で営業をして、個人でお仕事がもらえるようなサイクルを安定させていく必要があると感じてます。
また、現在わんくに住み始めてまだ4ヶ月ほどですが、人との繋がりも増えてきました。
嶺北への移住というのも有力な選択肢として考えていきたいと思っています!
自己実現ができるなら若者は地方に移住する
若者が地方から都会に出たがるというのは、なぜでしょうか?
様々な答えがあると思いますが、一言で言えば「自分の理想の人生が都会にありそうだから」だと思います。
しかし、都会で自己実現できる人もいれば、田舎で自己実現できる人もいるはずです。
つまり、田舎でも自己実現ができるという可能性を示してあげれば、若者は地方に来てくれるのではないでしょうか?
今回インタビューをした2人は両者共に「嶺北に行けば自分の理想に近づける」と思って1年間の入居を決めたという事が伝わってきました。
中井さんは嶺北に来るまでやることは決まっていなかった、あかりんごさんはやりたい事が明確だった、という違いはありますが、人生の可能性を広げるための移住だったと思います。
どれだけ田舎な環境であっても、今回のシェアハウスのように同期がいたり、メンタリングがあったりと自分の人生が前に進むと感じられる環境があれば若者は集まるんだなと実感しました。
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※今回紹介したシェアハウスわんくは、当メディアの運営元でもある藤川工務店が建設・運営に関わっています。なぜ工務店が、このメディアやシェアハウスを運営しているかについては別で社長にインタビューしていますので、よろしければ併せてご覧ください!
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